第15回亀倉雄策賞 平野敬子 HIRANO Keiko

受賞作:美術館の周年事業関連制作物「東京国立近代美術館 60周年」(cl:東京国立近代美術館)

受賞のことば

東京国立近代美術館60周年の仕事に対して、亀倉雄策先生のお名前を冠した、グラフィックデザインの最上位の賞賛をいただきましたことは、ビジュアル・コミュニケーションに対する同美術館の判断への評価であるとともに、このことを広く認知していただく結果となり、公共の場においてデザインの責務を負う者として、何よりも福音であったと思います。このような栄誉を与えてくださいましたことに、心より感謝申し上げます。
2002年のシンボルマーク開発からはじまった美術館の仕事は、時の経過とともに思考を重ねながら関係性を育み、今日に至るまで、職員のみなさまの名刺や展覧会の特別招待状、観覧券、ステーショナリーなどの、美術館の運営に必要な制作物を継続的に手がけてきました。これらの仕事は、デザイン開発とともに、デザインの運用に関わる環境づくりや印刷管理といった地道な活動が中心でしたが、国立の美術館としてのイメージを保ち、高めるためには、公共の場に相応しい品格を備えた質の高い制作物を納めることが確実な方法であると確信があり、管理人の仕事を担わせていただきました。
イメージ構築の理想を目指すためには、依頼主の理解と協力体制が必要でしたので、職員のみなさまに手間を強いてきたと思います。そして、印刷会社の仕事を超えた尽力がなければ継続は不可能でした。長い年月の間には迷いが生じたときもありましたが、美術館を寄贈されたブリヂストン創業者の石橋正二郎氏や建築を手がけられた谷口吉郎氏、歴代の職員のみなさまといった美術館の活動に宿る、眼に見えない崇高な精神からの霊感をイメージすると仕事の大義が見えてきて、迷いを払拭することができました。
10年の時を横断したデザインの意義や価値を理解してくださり、60周年という美術館にとって記念の時に、デザイン開発を託してくださいました加茂川幸夫館長をはじめとする関係者のみなさまに、この場をお借りし、心より御礼申し上げます。何にもまして、デザインの態度や判断を信頼していただけることが、創造と継続の力となっています。

平野敬子

平野敬子

HIRANO Keiko

1959年兵庫県生まれ。1997年 HIRANO STUDIO設立。2005年に工藤青石とともにコミュニケーションデザイン研究所(CDL)を設立。グラフィック、プロダクト、空間、ブランディング、展覧会の企画など、多様な活動領域でデザインを具体化する。主な仕事として、東京国立近代美術館のシンボルマーク・ロゴタイプ・VI計画・同美術館60周年シンボルマーク、資生堂の化粧品ブランド“qiora(キオラ)”のブランディング、NTTドコモ「F702iD 所作」のプロダクトデザイン及びトータルディレクション、竹尾・特種製紙の白い紙「ルミネッセンス」の開発、展覧会「時代のアイコン」展の企画・構成・会場デザイン及び同タイトルの書籍の編纂。JAGDA新人賞、東京ADC賞、NYADC賞金賞、毎日デザイン賞、IFデザイン賞など受賞多数。
(2013年1月現在)


連絡先: コミュニケーションデザイン研究所 t. 03-3478-9777