まだ駆け出しの23歳の時、毎日広告デザイン賞の端にひっかかり、帝国ホテルの授賞式で亀倉雄策さんをお見かけした。不躾に、はしゃいで求めた握手にも関わらず、亀倉さんはニコニコ気さくに応じてくださった。温かく柔らかな手。中身のない若者が何を話せるわけでもなかったが、光栄なファーストコンタクトに、この世界に一歩踏み入れた気がして浮かれた。けれど、まばゆい式典で、たくさんの受賞作や制作者たちを見ているうちに、舞い上がった気持ちはみるみるしぼみ、自分はまだ何も始まっていないことに気づかされた。まず会社に戻って仕事からがんばらねば と、トボトボ銀座から帰ったことをよく覚えている。デザインの大河に、ほんの少し手をさしただけの、最初で最後のコンタクト。それは受け入れてくれるようにも、優しく跳ね返してくれるようにも思えた。うすっぺらな若者の冷たい手を亀倉さんはどう感じたろう。
あれから幾年も経ち、このたびの受賞を、身にあまる光栄に感じています。 と、同時になぜか、あの帰り道に、途方に暮れながら、未来を想った気持ちと同じものが湧き上がっています。つねに新しく、デザインで世界と通じることを求めた亀倉雄策さん。あの時感じた体温はまだこの手に残っています。よりいっそういいものが作れるようにがんばります。
最後に、受賞のきっかけとなった展覧会に関わってくださった方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。
中村至男
NAKAMURA Norio