第20回亀倉雄策賞 中村至男 NAKAMURA Norio

受賞作:個展の告知・出品ポスター「中村至男展」(org:クリエイションギャラリーG8)

受賞のことば

まだ駆け出しの23歳の時、毎日広告デザイン賞の端にひっかかり、帝国ホテルの授賞式で亀倉雄策さんをお見かけした。不躾に、はしゃいで求めた握手にも関わらず、亀倉さんはニコニコ気さくに応じてくださった。温かく柔らかな手。中身のない若者が何を話せるわけでもなかったが、光栄なファーストコンタクトに、この世界に一歩踏み入れた気がして浮かれた。けれど、まばゆい式典で、たくさんの受賞作や制作者たちを見ているうちに、舞い上がった気持ちはみるみるしぼみ、自分はまだ何も始まっていないことに気づかされた。まず会社に戻って仕事からがんばらねば と、トボトボ銀座から帰ったことをよく覚えている。デザインの大河に、ほんの少し手をさしただけの、最初で最後のコンタクト。それは受け入れてくれるようにも、優しく跳ね返してくれるようにも思えた。うすっぺらな若者の冷たい手を亀倉さんはどう感じたろう。
あれから幾年も経ち、このたびの受賞を、身にあまる光栄に感じています。 と、同時になぜか、あの帰り道に、途方に暮れながら、未来を想った気持ちと同じものが湧き上がっています。つねに新しく、デザインで世界と通じることを求めた亀倉雄策さん。あの時感じた体温はまだこの手に残っています。よりいっそういいものが作れるようにがんばります。
最後に、受賞のきっかけとなった展覧会に関わってくださった方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。

中村至男

中村至男

NAKAMURA Norio

川崎市生まれ。日本大学藝術学部卒業、同年CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社。1997年よりフリーランス。主な仕事に、21_21 DESIGN SIGHT「単位展」、銀座メゾンエルメスのウインドウディスプレイ、松山市立子規記念博物館、日本科学未来館、雑誌『広告批評』(1999年)、アートユニット「明和電機」のグラフィックデザイン、佐藤雅彦氏とのプロジェクトとして、PlayStation「I.Q」やNHKみんなのうた「テトペッテンソン」など。著書に、絵本『どっとこどうぶつえん』(福音館書店)、『勝手に広告』(佐藤雅彦と共著・マガジンハウス)、『明和電機の広告デザイン』(土佐信道と共著・NTT出版)、『7:14』など。『どっとこどうぶつえん』で、ボローニャ・ラガッツィ賞優秀賞。

掲載書籍:『Graphic Design in Japan 2018』(2018年6月発行)
連絡先:中村至男制作室 メール