1964年東京オリンピックの記憶は鮮明に残っている。小学4年生の時だ。日の丸と金の五輪のエンブレム、陸上と水泳のポスター。それらが三面に配置された旧東海銀行の三角柱の貯金箱が僕の机にずっとあった。しかし、当時は亀倉雄策の名を知る由もなかった。その後デザインを志しその存在を知るのだが、初めて本人に出会った日を忘れることはない。1994年、クリエイションギャラリーG8での僕の個展開催日だった。当時、G8のあるリクルートビルの2階に亀倉デザイン研究室があり挨拶に出かけた。丁度、東京国際フォーラムのシンボルマーク指名コンペに参加していた僕は、発表を首を長くして待っていた。開口一番「君の東京国際フォーラムのシンボルマークは最終選考で選ばれなかった。シンボルは難しいな」。僕にとっての『デザインの神』のような存在からの言葉だ。「君のシンボルは、君が展開することを目論んでいる。シンボルは打たれ強くなければならない。特に公共のシンボルは難しい。誰が展開しようが、少々斜めに配置をされてもビクともしない強さがいる。何より理念が明快に表現されている。それがシンボルなんだ」。この言葉がいまだ脳裏から離れない。
あれからずいぶんの年月が経った。まさか、亀倉雄策賞の知らせが僕に届くとは夢にも思わなかった。今回の受賞は『APPLE+』の展覧会の告知ポスターが対象だが、その背景には『APPLE』というデザイン教育プログラムがある。これは、誰もが知っている『りんご』を通してデザインの楽しさや奥深さに気づいてもらうという構造だ。身体性を生かした観察手法や、自然界に潜む色の抽出、また、不自由さの中で見つけ出す物の真意や、偶然の幸運に出会う発想法など、ユニークな実習を通して『気づき』に気づき、最終的にはそれらすべてのプロセスが記録された教科書へと仕上がる。このように社会課題の一つである『教育』をテーマにしたデザインに評価をいただきとても嬉しく思う。このプロジェクトでは、ポスターにおける錯視を心理学者で立命館大学の北岡明佳教授に監修をいただき、その他、多くの専門家に協力を得た。ポスター、空間、インタラクティブ、映像、音楽、立体造形、書籍などあらゆるメディアを駆使して「デザインとは何か」を問い続けた。そして、その問いに真剣に悩み答えを模索した学生達。ここにみんなの力が結集してこの度の受賞へと繋がったと思う。多くのみなさんにこの場を借りて感謝したい。
三木 健
MIKI Ken