初めて亀倉雄策さんの作品を目の前にしたのは、数年前にクリエイションギャラリーG8で行われた展覧会でのことでした。当時、僕は小さなモノをつくることに必死になっていたのですが、亀倉さんの作品を目の前にして、そのパワーに圧倒され、愕然とうなだれてしまうのと同時に、何か未来への期待感のようなものも感じながら会場を後にしたのを覚えています。それは、デザインというものの奥深さとともに、デザインの仕事には社会との関わりそのものが現れるものだということを学ばせていただいたのだと思います。しかし、あれから何年も経たずにこのような大きな賞をいただくことができるなんて、想像もできませんでした。
モノづくりというものは、ディテールに向かってしまいがちで、ともすれば、自分一人でもがくことになってしまいます。社会との関わりの無いところで苦しむのは、いわば滝に打たれる修行僧のようなもので、デザインは苦しいものだと勘違いしてしまいがちです。これに対して、社会との関わりの中から生まれたデザインには、どこか明るく、力強いものがあります。ただ、一方で、ディテールへの配慮に欠け、すぐに見飽きてしまうものも少なくはないと思います。
僕は、あの亀倉さんの展覧会で見た作品の多くに、ディテールへの興味と社会との関わりの両面を感じ、強く心が揺さぶられたのを覚えています。
シアタープロダクツの仕事は、彼らの社会に対する強烈な想いがかたちになったものです。ファッションの世界で自立し続けることは、想像を絶する苦労を要し、この度、亀倉雄策賞として「光」をあてていただいた仕事は、彼らの「汗と涙の結晶」であると、僕は確信しています。
植原亮輔
UEHARA Ryosuke
1972年北海道生まれ。現在株式会社DRAFT/D-BROS所属。フラワーベース「Hope forever blossoming」、架空のホテルから生まれるプロダクト「ホテルバタフライ」などD-BROSの商品デザインを手がける。2006年から、ファッションブランド「シアタープロダクツ・シアタームジカ」のグラフィック全般におけるアートディレクションを手がける。その他主なクライアントとして、「パナソニック電工」「ウンナナクール・LuncH」「Smiles」など。また、渡邉良重氏と共にショートフィルム「欲望の茶色い塊」(21_21 DESIGN SIGHT・チョコレート展/2007)の制作や、「SPACE FOR YOUR FUTURE」(東京都現代美術館/2007)に参加。2008年10月「時間の標本」展をAMPGにて開催するなど活動は多岐に渡る。東京ADC賞、JAGDA新人賞、TDC賞、NY ADC金賞、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ銀賞等、受賞多数。東京ADC会員。JAGDA会員。
(2008年12月現在)
掲載書籍:『Graphic Design in Japan 2009』(2009年6月発行)
連絡先:ドラフト t. 03-3498-5281