東京オリンピックの翌年に生まれた僕は、亀倉先生のオリンピックのポスターをリアルタイムで見ていません。でも後に美大に入り、グラフィックデザインを志した頃から、先生のそのポスターは強く惹きつけられる、僕にとって何か特別なものでした。日の丸と五輪という最小限のモチーフで構成され、一度見たら忘れられないインパクトを残すそのデザインの考え方に深く感動し、以来そういうことが僕の中でグラフィックデザインや広告を制作するうえで、ひとつの基準となってきたような気がします。シンプルで明快で強いもの、デザインの力で世の中に物事を定着させるようなことをずっと目指してきました。そしていつか亀倉先生にお目にかかりデザインのお話を直接うかがってみたいと願っていましたが、残念ながら遂にその機会は訪れませんでした。
今回この賞をいただいた「Smap」は、シンプルな三原色とロゴでマークを作り、あたかも「Smap」という超メジャーなブランドが立ち上がったかのような擬似CIキャンペーンです。本人たちのビジュアルを一切露出せず、Smapの人気、実力、存在感をロゴデザインに集約し、視覚化したこのキャンペーンは、先生のオリンピックのポスターに出逢って以来僕がずっとやりたかったことがやっと実現できたクリエイティブです。そんな仕事でこの賞をいただくことができて心からうれしく思うと同時に、これからもクリエイティブの突破力「Power of Design」を信じて明快で強いものを作り続けていきたいと願っております。
佐藤可士和
SATO Kashiwa
1965年東京生まれ。1989年多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業、博報堂入社。2000年博報堂退社、クリエイティブエージェンシー「サムライ」設立。スマップ、ホンダステップワゴン、キリン極生、キリンチビレモン、資生堂5S、TBC、パルコ等、商品開発から広告キャンペーンまで幅広く、トータルなクリエイティブディレクション、アートディレクションを手がける。東京ADCグランプリ、朝日広告賞、JAGDA新人賞、東京TDC金賞、日本パッケージデザイン大賞金賞、ほか多数受賞。東京ADC会員、東京TDC会員。
(2002年6月現在)
掲載書籍:『JAGDA年鑑2002』