亀倉雄策賞の最終選考会で私の作品が3点のノミネートのなかに入った。その段階で私は選考から離れて会場を出て1人ぽつんと廊下の椅子に腰掛けて結果を待った。その時間がやけに永く感じられると共に、複雑な想いが錯綜した。亀倉雄策賞は今回で2回目になるのだが、第1回受賞者の田中一光さんが言われたように、未来への可能性の時間をたっぷりと持った若い人に受けてほしいという想いはある。だから今回からデザイナーの作品は1人1点(シリーズを含む)と限定し、若い人達をはじめ多くの人々に可能性を拡げたわけである。そしてノミネート作品は『JAGDA年鑑』に応募された多数のなかから選び抜かれ、その年の最も輝く作品に亀倉雄策賞が与えられることになる。 私はここまでくればもうよいのではないかという気持ちと、作家としても人間としても最も尊敬してきた亀倉先生の記念碑とも言うべき賞なので受賞できればという想いが入り乱れた。
そしてようやく選考が終わり会場に呼ばれて、僅差ではあったが私が受賞したと知らされた。考えてみれば亀倉先生は、私の今の年をさらに過ぎてから、あの世界的なデザイン誌『クリエイション』を創刊された。それやこれやに想いを馳せると、この賞で私は亀倉先生からとても大きな勇気をいただいたように思う。
永井一正
NAGAI Kazumasa
1929年大阪府生まれ。1951年東京芸術大学彫刻科中退。大和紡績を経て、1960年日本デザインセンター創立に参加、現在代表取締役。1994年よりJAGDA会長。1998年夏および1999年夏「永井一正ポスター展“LIFE”」を開催(東京・国立近代美術館フィルムセンター、名古屋・国際デザインセンター)。これまでに、ADCグランプリ、毎日芸術賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、勲四等旭日小綬賞、ブルノ、モスクワの国際ポスターコンペグランプリなど、国内外の賞を多数受賞。
(2000年6月現在)
掲載書籍:『JAGDA年鑑2000』